皇帝陛下、今宵あなたを殺害いたします―復讐するのに溺愛しないでください―【コミカライズ原作】
「サリーは、十年間城にお仕えし、ずっと陛下を見守ってきました。確かに、ジャドレさまの事件に関しましては、真相はわかりかねます。⋯⋯しかし、わたくしたち使用人も、理不尽な理由で人を殺める方では無いと思っております」
「⋯⋯えぇ」
みんな兄さんと同意見。それが普通なのだろう。これまでの私が見境をなくしていたのだ。
柔らかなバスローブがふわりと肩に被せられ、脱衣室に向かう。サリーは使用済みのタオルを手に後に続いてきた。
「――でも、こうして戻ってこられたアイリスさまが、陛下のお心に触れようとしている姿は、ようやく明るい兆しが見えてきたかのようにも、思えます」
「⋯⋯そんな、大げさよ」
「いいえ。今まで、事件については、誰も触れようとしてこなかったですから」
真新しい寝間着を手渡されて、レース地のナイトガウンに袖を通した。透けそうで透けていない上品な素材は、足首までストンと落ちる。
『誰も、触れようとしてこなかった』
その言い方はまるで、“あえて”そうしているようにも聞こえる。乾いていない傷跡に触れるのを躊躇うように。
でも私には、知る権利があるはずだ。
「諦めるつもりはないから⋯⋯近いうち、もう一度チャレンジしてみるわ」
「――なら、話は早いですね⋯⋯」
「え?」
「ふふふ、なんでもありませんよ」
着替えを終えた私は、すとんと脱衣室内の綺羅びやかなドレッサーの前に座らされた。
ここで髪を乾かすのはいつもの事なのだが、サリーの大きな目が、なんだか異様に使命感に燃えているような気がする。気のせいかしら?