皇帝陛下、今宵あなたを殺害いたします―復讐するのに溺愛しないでください―【コミカライズ原作】
――コン、コン。
「アイリスさま、こちらにいらっしゃいましたか」
うわぁ!
ノックとほぼ同時に顔を出したのは、まん丸の顔をニッコリとさせたクロードさんだった。
私は咄嗟に手にしていたノートを、本の間に入れて隠す。
「⋯⋯クロードさん、どうしたの?」
爆発しそうな心臓を必死に抑え込み、ダークブラウンのローブをなびかせて、こちらに走ってくるクロードさんへ笑顔を作る。
この人の登場は、いつも心臓に悪い。
「お勉強中申し訳ありません。陛下から言付けがありまして! 本日のご夕食なのですが急な公務が――」
そう言って巨体を揺らしながら近づいてき彼は、テーブルの上に重なる本を見るなり、言葉を失ってしまった。
「クロードさん?」
やばい。まさか、隠しているカルテがバレた⋯⋯?
内心、背筋をひんやりと震わせていると、クロードさんは重なっていた本へと手を伸ばして
「歴史⋯⋯。陛下のお心が、届いたのですか」
どこか納得したように、また、感慨深そうに本の表紙なぞる。
タイトルは『ヴァルフィエの近代歴書』
バレていないことに、ホッと胸を撫でおろしつつも、つい最近まで、自分たちの関係のことで心配をかけていただけに、妙に胸の内がくすぐったくなってしまった。