皇帝陛下、今宵あなたを殺害いたします―復讐するのに溺愛しないでください―【コミカライズ原作】

――コン、コン。


「アイリスさま、こちらにいらっしゃいましたか」


うわぁ!


ノックとほぼ同時に顔を出したのは、まん丸の顔をニッコリとさせたクロードさんだった。

私は咄嗟に手にしていたノートを、本の間に入れて隠す。


「⋯⋯クロードさん、どうしたの?」


爆発しそうな心臓を必死に抑え込み、ダークブラウンのローブをなびかせて、こちらに走ってくるクロードさんへ笑顔を作る。

この人の登場は、いつも心臓に悪い。


「お勉強中申し訳ありません。陛下から言付けがありまして! 本日のご夕食なのですが急な公務が――」


そう言って巨体を揺らしながら近づいてき彼は、テーブルの上に重なる本を見るなり、言葉を失ってしまった。


「クロードさん?」


やばい。まさか、隠しているカルテがバレた⋯⋯?


内心、背筋をひんやりと震わせていると、クロードさんは重なっていた本へと手を伸ばして


「歴史⋯⋯。陛下のお心が、届いたのですか」


どこか納得したように、また、感慨深そうに本の表紙なぞる。


タイトルは『ヴァルフィエの近代歴書』

バレていないことに、ホッと胸を撫でおろしつつも、つい最近まで、自分たちの関係のことで心配をかけていただけに、妙に胸の内がくすぐったくなってしまった。

< 226 / 305 >

この作品をシェア

pagetop