皇帝陛下、今宵あなたを殺害いたします―復讐するのに溺愛しないでください―【コミカライズ原作】
「アイリスさま?」
動こうとしない私を、長い銀髪を揺らしたハリス先生が覗き込んできた。
「あ、ごめんなさい」
先生はノートを受け取ると「では、内密に」と釘指してからその足で慌ただしく扉へと向かう。
え? それだけ? 大切な情報なのに?
もしかして――
「――ハリス先生!」
咄嗟に手を上げてしまった。
叫んだ私から数メートル離れたところで、白衣の背中がピタリと止まり、人の良さげな顔がニッコリと振り返る。
「どうなさいました?」
でも、呼び止めると、何を言えばいいのかわからなくなってしまって。当てはまる無難な言葉を探す。
宮廷医と皇帝の間では、かなり厳しい制約が取り交わされると聞く。そんな中しっかり者のハリス先生が“忘れた”ということは⋯⋯
あげていた手を引っ込めた――
「――⋯⋯いえ、なんでもないわ。“秘密”情報なら、わかる前に先生が来てくれて良かった」
反応を伺いながら肩をすぼめて見せると、先生はわざとらしく目をパチパチとさせた。
「間に合ったようで良かったです。⋯⋯知りたいからと言って⋯⋯陛下の交友関係に探りをいれたりしてはいけませんよ?」
――え⋯⋯?
しかし、疑問を口にする前に、ドアが開き男性が扉から顔を出した。騎士団員の制服を着ている。