皇帝陛下、今宵あなたを殺害いたします―復讐するのに溺愛しないでください―【コミカライズ原作】
「大丈夫です――アイリスさま」
不安に埋め尽くされそうな私の背中に、大きな手が当てられた。
「陛下は頭のキレる方なので、うまく収めることでしょう。今、陛下が、退位をしたところで、帝国内がどのような状態に陥るかということは、目に見えてわかっていますし、誰も望みません。橋の件とて同じことです」
暖かな言葉が私の心を包み込む。
そうだ。“誰も望まない”。味方は沢山いる。
「前回の視察時の怪我についても事故のようなものですし、もう組織内に、昔のように“異端派”はいません」
その言葉に、勇気づけられた。
本当のことを告げてくれた上で、不安を取り除こうとしてくれるクロードさんに「ありがとう」と伝える。
皇帝がいなくなれば、間違いなく各国の権力者たちが争い、その座を奪い合うだろう。
橋の工事とて、因縁で阻止していいものではない。
「彼が優しい国造りをしようとしていることが、彼らにも伝わればいいのだけど」
『⋯⋯前皇帝たちよりも、さらに、平和な世にしていきたい』
誰よりも帝国の平和と、民を愛するルイナード。
『血を流す行為は⋯⋯したくない』
もしかしたら、この言葉たちは、事件の日に対する、懺悔だったのかもしれない。
“異端派”と聞いた今、ふと、そんなことを思った。
「陛下はあまり表情に出されない方ですので、相手側に誤解をさせている部分もあるようです⋯⋯。しかし、わたしくも信じておりますよ。陛下の優しが届き、帝国がひとつになるときを」
クロードさんは、窓の外に広がる城下町をにっこり見下ろしながら、そう励ましてくれたのだった。