皇帝陛下、今宵あなたを殺害いたします―復讐するのに溺愛しないでください―【コミカライズ原作】
そして、退院して一週間。
「ルイナード! ⋯⋯また読書をしているの?」
「アイリス、もう授業は終わったのか?」
午前中のケーラ先生との授業を終えると、部屋で静養するルイナードと共に過ごすことが当たり前となっていた。
ルイナードはいざ時間を与えられると、何をしていいのか分からないようで、いつもベッドで読書をしている。まだ所々に残る打撲傷が痛々しい。
「これで身体が休まっているの? 午前中くらい、ちゃんと横になってないとだめじゃない」
ベッドへ近づいて本を取り上げると、ネイビーのシャツのラフなトラウザーズ姿の彼は、その頭にほんのり寝癖をつけて、柔らかな色で笑いかけてくれる。
周囲にはあまり見せない姿に、キュンと胸が痛い。
「最近、お腹がまた一段と大きくなってきたな」
「⋯⋯もう。また、そうやって、ごまかして」
ベッドサイドに腰を下ろし、彼の寝癖を治していると、またもや煙に巻かれてしまう。
柔らかなレモン色のドレスの下から覗くお腹は、そろそろ8ヶ月に突入する。最近は胎動が大きく、腰痛に悩まされることも多い。
「楽しみだな⋯⋯」
「とっても元気なのよ。男の子かしら?」
「性別などどちらでもいい。ヴァルフィエは世継ぎに男女も関係無いからな。なにより誰との子供かが一番大切だ」
私の肩を抱き寄せて、もう一方の大きな手は胎動を緩やかにお腹を撫でる。
やがて至近距離で視線が絡み合って、ルイナードの巧妙な人形のように美しい顔が近づいてくる。
細く通った鼻筋に、艶のある桃色の唇。
イエローダイヤモンドのような瞳が瞼の下に隠れて。
それらに見惚れながら目を閉じると、唇が優しく重ねられる。