皇帝陛下、今宵あなたを殺害いたします―復讐するのに溺愛しないでください―【コミカライズ原作】
やがて、合掌から顔を上げたルイナードは、こちらの異変に気付いてしまった。
柔らかな秋の風が、私たちを包み込む。
「また、泣いているのか。⋯⋯アイリスおいで。ひとりでなくな。お前が泣くと⋯⋯俺が痛い」
芝生に腰を下ろしたルイナードは、私に向かって両腕を広げる。
“泣くな”
それは「俺を頼れ」という意味だそうだ。
恥ずかしそうに教えてくれたのは、ごく最近、彼の部屋で共に過ごしているときのこと。
隣に並んで、その胸にうっとりと頬をすり寄せて、目を閉じる。すかさず肩を抱いてくれる大きな腕は、あの頃から変わらず命令口調のくせに、とっても優しい。
いつも温かい、私だけの居場所。ここだけは、なにがあっても失いたくない。
彼がヘリオンスから帰国してからは、より一層そう思うようになった。
事件の日、何があったのかは、わからない。
けれども、お父さまの死を慈しんでくれるというルイナードの気持ちだけは本物だ。
ありがとう、ルイナード
そんな思いで顔を上げると、煌めく瞳がすでに、こちら見下ろしていた。
「――約束していたから⋯⋯言わなければならないな」
仕方ないと言わんばかりに微笑んだルイナードは、私の額にそっと唇を押し付けた。
突然のことに「え⋯⋯」と間抜けな声をあげると、繊細な指先は蜂蜜色の髪をもてあそんだあと、するりと指に巻き付けて口元へ運ぶ。
「ここを経つ前に言っただろう?」
髪に口付けながら、ルイナードは含んだ表情を見せる。
考えるまでもなく、待ち焦がれていたひとつのセリフ浮かび上がる。