皇帝陛下、今宵あなたを殺害いたします―復讐するのに溺愛しないでください―【コミカライズ原作】
「ジャドレ、すまないが、これも確認してくれ」
即位してから一ヶ月。この頃の俺は、父の死を悲しむ暇もなく、慣れない公務に勤しみ、執務室に深夜まで籠もる日々が続いていた。
唯一の右の視界が霞んでいるのを感じ、眉間を揉むように掴んでいると、前方にやってきた影が、なかなか立ち去らないことに疑問を覚える。
「⋯⋯どうした?」
ガタイの良い体つきと、ブラウンの短髪。その下にある、人の良さそうな薄い面立ちが、書類を手にしまま、こちらを伺うように覗きこんでいた。
「陛下、そろそろ今夜はお休みになりませんか? 顔がお疲れですよ」
「⋯⋯それは、ジャドレも同じだろう」
「わたくしはまだまだでございますよ!」
ガハハと疲れを感じさせない笑いで、雰囲気を和ませる彼が――ジャドレ=ロルシエ。
アイリスの父でもある彼は、有能な宰相として有名だ。庶民出身と叩かれながらも、その能力で周囲を黙らせ、とても豪快で明るい人柄は、周りをも惹き付ける不思議な魅力があった。
親子の容姿は全く似ていないが、レイニーの陽気で柔和なところと、アイリスのたまに見せる頑固なところは、ジャドレ譲りなのでは? と常々思っていた。