皇帝陛下、今宵あなたを殺害いたします―復讐するのに溺愛しないでください―【コミカライズ原作】

彼は受け取った書類を、前方のテーブルで一通り確認したあと、再びこちらまで足を運ぶ。


「そういえば、アイリスが心配しておりましてね。毎日毎日、しつこいのです。『ルイナードを少し休ませてあげて』『わたしも心配で眠れないわ』と。今朝も口酸っぱくして言われましてね」


アイリスに微かに似た目元をにんまりと緩めて、俺が一番弱い名前を出してきた。

アイリス同様、彼もまた俺を転がすのが得意だ。


「⋯⋯思えば、ここ数日、食事も共にしていないな」

「公務が慣れてきたら、共に城下町に行きたいなどと、喚いておりましたよ」

「⋯⋯わかった、少し根を詰めないようにしよう。今日はそろそろ休むか」


若干、誘導される自分に呆れもしたが、自身の疲れもあって了承することにした。それに、疲れているのは、俺だけではない。

このとき見た、ジャドレの穏やかな笑みは、一生忘れられないものとなる。


そして、このとき。事件は起きてしまった。


――バンッ!!


突如、乱暴に扉が開き、5、6名ほどの大剣を構えた黒づくめ男たちが押し入ってきた。


「なんだ⋯⋯お前たちは」

「どうやって侵入した!?」


部屋は瞬時にして、緊張感に満ちる。

ここは断崖絶壁にある城だ。正面には門兵がいる。侵入するとすれば、崖側の塀をよじ登るか、そこに面した足場の悪い林を抜けるしかない。

しかし、男たちは質問に答えることなく、すぐさま地面を蹴って向かってきた。同じタイミングで、ジャドレが椅子をバルコニーに放り投げる。

大音量で窓ガラスが粉砕し、相手側は焦りの色が浮かべて、足を止めた。

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