皇帝陛下、今宵あなたを殺害いたします―復讐するのに溺愛しないでください―【コミカライズ原作】


「この音で、すぐに皇帝騎士団が駆けつける。捕まりたくなければ諦めて去れ。今なら見逃してやる」


彼らは、おそらく反皇帝組織の人間。独特な前合わせの衣装は、ヘリオンスで流行りの型だと記憶している。


しかし、なぜ、こんなことを⋯⋯?


グランティエ家が君臨してからこれまで。組織の動きは、皇族の管理する地域で軽いデモのような行進のみ。大きなトラブルは全く無く、平和な世の中だった。


出来れば戦いは避けたい。


しかし、忠告は虚しく、彼らは迷うことなく再び剣を振り上げてきた。



――そこから、あの瞬間までの記憶は曖昧だ。



ただ、ただ、必死だった。

俺とジャドレは護身用の剣を構えて、すぐさま応戦した。

激しい剣戟だった。

肉体のぶつかり合う鈍い音に。

呻く声。

俺は、ひたすら、手元を斬りつけ。

体勢の乱れた相手の腹に蹴りを入れて――床へと転がす。

人数的にはとても不利だ。しかし、幸いなことに、相手側に剣術の心得はなく、騎士とともに訓練している俺の敵ではなかった。

さほど嗜みのないジャドレでも、なんとか剣への応対はできている。


いける。大丈夫そうだ。


『ルイナード、組織を恨んではいけないぞ。――彼らこそ愛すべき民だ』


よく、父の口にしてきた言葉が脳裏を過る。

わかっている。

大昔、彼らに対してひどい扱いしていたのは、血の繋がりは無くとも“皇帝一族”だ。

我々はそれを念頭におかねばならないと、代々、グランティエ一族に受け継がれてきた。

組織とて民。傷つけてはならぬ。殺してはならぬ。

そう、思ってた。

思っていたんだ⋯⋯

< 277 / 305 >

この作品をシェア

pagetop