皇帝陛下、今宵あなたを殺害いたします―復讐するのに溺愛しないでください―【コミカライズ原作】
「この音で、すぐに皇帝騎士団が駆けつける。捕まりたくなければ諦めて去れ。今なら見逃してやる」
彼らは、おそらく反皇帝組織の人間。独特な前合わせの衣装は、ヘリオンスで流行りの型だと記憶している。
しかし、なぜ、こんなことを⋯⋯?
グランティエ家が君臨してからこれまで。組織の動きは、皇族の管理する地域で軽いデモのような行進のみ。大きなトラブルは全く無く、平和な世の中だった。
出来れば戦いは避けたい。
しかし、忠告は虚しく、彼らは迷うことなく再び剣を振り上げてきた。
――そこから、あの瞬間までの記憶は曖昧だ。
ただ、ただ、必死だった。
俺とジャドレは護身用の剣を構えて、すぐさま応戦した。
激しい剣戟だった。
肉体のぶつかり合う鈍い音に。
呻く声。
俺は、ひたすら、手元を斬りつけ。
体勢の乱れた相手の腹に蹴りを入れて――床へと転がす。
人数的にはとても不利だ。しかし、幸いなことに、相手側に剣術の心得はなく、騎士とともに訓練している俺の敵ではなかった。
さほど嗜みのないジャドレでも、なんとか剣への応対はできている。
いける。大丈夫そうだ。
『ルイナード、組織を恨んではいけないぞ。――彼らこそ愛すべき民だ』
よく、父の口にしてきた言葉が脳裏を過る。
わかっている。
大昔、彼らに対してひどい扱いしていたのは、血の繋がりは無くとも“皇帝一族”だ。
我々はそれを念頭におかねばならないと、代々、グランティエ一族に受け継がれてきた。
組織とて民。傷つけてはならぬ。殺してはならぬ。
そう、思ってた。
思っていたんだ⋯⋯