皇帝陛下、今宵あなたを殺害いたします―復讐するのに溺愛しないでください―【コミカライズ原作】


ーー相変わらず、そこは天国のような美しさを誇っていた。

色とりどりの花が咲き誇り、別世界とも謳われるほど幻想的な皇城の庭園。

薔薇の宿る温室。天使像の巨大なオブジェ。庭を横断する水路。月光に揺らめく大きな噴水台。


⋯⋯天界の庭園のようなこの場所は、昔と全く変わっていない。


「寒くないですか?」

「えぇ、大丈夫です⋯⋯」


風に揺れるブランケットを胸元で押さる。会場の熱気から身体が冷えてむしろ心地よい。


この庭園が美しいことは、誰よりもよく知っている。


だからこそ、本当なら来たくなかった⋯⋯。


春の代名詞ともいわれる桃色の小花が、庭のあらゆるところに咲き誇る。それらが夜風に揺れて樹木から散りゆく姿は、一層情緒的な気持ちを煽る。

彼の半歩後ろで動かしていた足を、私はいつの間にか止めていたようだ。


「花が好きなんですか⋯⋯?」


枝の花に手を伸ばしていると、そんな私を見下ろすように彼が並んでいた。涼し気な目元がふわりと緩められ、なぜか私の気持ちは無性に焦る。

< 36 / 305 >

この作品をシェア

pagetop