皇帝陛下、今宵あなたを殺害いたします―復讐するのに溺愛しないでください―【コミカライズ原作】
「お嬢さんいけませんね。仮面舞踏会の“掟”⋯⋯破るんですか?」
その瞬間、くり抜かれた仮面の奥で、漆黒の瞳がギラリと怪しげに光ったような気がした。
そうだ。相手の『素性』に関することを聞くのはご法度だわ。今の言い方は、明らかに身分への探りにつながる。
気分を悪くさせたに違いない。
「ごめんなさい、気になったもので」
「はは、ジョーダンですよ。あなたに気にしてもらえるのは気分がいいです」
「―――」
そう言う割に、触れられるのは本意ではなさそうだった。
城に出入りする高貴な出というと、伯爵よりも上もしくは騎士の可能性もある。まぁ⋯⋯詮索を入れる余地はもうないから考えても仕方ないわね。
思考を打ち切り、歩いていたはずの隣を見ると、姿がないことに気づく。
あれ、いない?
顔を上げて周辺を見回していると、
「ありましたよ」
数メートル先にある花壇の前で膝を折り、嬉しそうな声色でこちらを手招きする彼の姿があった。