皇帝陛下、今宵あなたを殺害いたします―復讐するのに溺愛しないでください―【コミカライズ原作】
そして、仮面舞踏会から一ヶ月。私は、以前と変わらない毎日を送っていた。
「アイリスちゃん、そろそろ休憩だよ。裏で休憩しておいで」
「はい! アンナさん」
ここは城下街にあるフラワーショップ『サザンメリー』
十六の頃から手伝いをさせてもらっているアンナさんとトムさん夫妻が営む近所のお店だ。
街で花売りの仕事を終え店に戻った私は、この店の奥さん――アンナさんに声かけられた。ふくよかな体から出てくる声は今日も通っている。
「悪いけど中に入る前にブルースター包んでおいてくれるかい? さっきのお客さんが買い物帰りに取りに来るんだ」
「わかりました!」
快く了承した私は、看板横のバケツに差さる青いブルースターを数本手にした。
太陽の光を一身に受けて、美しく咲き誇る青い花を見ているとふと、今でも思いだす。
漆黒の瞳の、一夜限りの恋人。彼はどうしているのだろうかと。