皇帝陛下、今宵あなたを殺害いたします―復讐するのに溺愛しないでください―【コミカライズ原作】
“なんかあった”にはあったけれど、ちゃんと割り切っているのだ。あの恋は一夜限りのものだと、例え街で見かけたとしても、気付いたとしても、声をかけてはいけないと。わかってる。
だから、食欲が無い理由は、本当に恋煩いなんかではない。
ただ、胃のあたりがモヤモヤして、なぜか身体は野菜などのさっぱりしたものを求めるのだ。こってりしたものは、思い浮かべるだけで気持ち悪くなりそうで⋯⋯。
そこまで考えると、ひとつの可能性がちらりと脳内を過ぎるけれど――。
とりあえず今は、頭の端に追いやることにした。
「とにかく、なんでもないから心配しないで。明日から兄さんは任務で遠征でしょ? しっかり食べて力をつけてちょうだい⋯⋯」
「アイリス?」
しかし、食べ終えた食器集めて立ち上がった、その時だった。
ぐらりと脳が揺れ、一気に身体中から血の気が引いていく。
「――え? おい、アイリス――っ!」
あれ⋯⋯大丈夫だったのに。
目の前が真っ暗になった私は、糸の切れた人形のように床へ崩れ落ちた。兄さんの悲鳴を耳にしながら、意識ごとブラックホールのなかへと吸い込まれていく。