皇帝陛下、今宵あなたを殺害いたします―復讐するのに溺愛しないでください―【コミカライズ原作】
あぁ、この声は――。
たったひと声を聞いただけなのに。
深い海の底に沈んでいくような、苦しくて切ないような不思議な感覚に襲われた。
ずっと奥底にしまっていたというのに。なんで今になって蘇ってきたのだろう。
出来るなら耳を塞いでしまいたい。
そう思うのに、否応なしに彼の声は聞こえてくるの――。
『アイリス、だったか。お前はいつもひとりで遊んでいるな。⋯⋯ひとりで遊んでいて楽しいのか?』
抑揚のない声色。
だけど、彼の眼差しはとても暖かかったのを、覚えている。
『⋯⋯たのしくないよ。でもね⋯⋯だってね。お母さまは死んじゃったし。兄さんはキシのしゅぎょーにいくって言うから。ひとりであそぶしかないのよ』
少年は『そうか⋯⋯』としんみりつぶやき、少しだけ間をおいてから
――このとき決意をしてくれたの。
『⋯⋯なら、俺が一緒いてやろう』
静かな決意に『えっ』と期待するような声が漏れる。
『⋯⋯ほんと? こーたいし』
『皇太子じゃない。俺の名前は、ルイナード=グランティエ。いずれこの帝国の皇帝になる男だ。今日からお前の友達になってやる。アイリス』
サラサラと風に攫われる漆黒の髪と太陽のようにきらめく黄金の瞳。彼は鼻の下を偉そうにこすって、照れくさそうに宣言した。
あの瞬間を、私は鮮明に覚えている。彼が口にした一言一句を全て。
幼い私はこの瞬間――ルイナードに恋をしたから。