皇帝陛下、今宵あなたを殺害いたします―復讐するのに溺愛しないでください―【コミカライズ原作】
なんで今になって、こんな夢を⋯⋯?
ぼんやりとそんな思考をもったとき、ふわりと意識が浮遊する感覚におそわれる。
「ん⋯⋯」
余韻に浸りながらゆっくり目を開くと、心配そうな兄さんがこちらを覗き込んでいた。
「アイリス⋯⋯大丈夫か?」
その隣りにいる白衣の男性も同様に「よかったよかった」と覗きこみ微笑む。
そうだ⋯⋯私、倒れたんだ!
そこで慌ててベッドから起き上がろうとすると、「ゆっくりでいい」と二人の静止の手が目の前にやってきた。
「慌てなくていいから、じゃぁ診察をはじめようか」
「⋯⋯はい」
それから騎士団の宿舎内に在中する高齢医師による問診が行われた。
私の倒れたあと、兄さんが数分ほどの距離にある宿舎まで、呼びにいってくれたようだ。
診察は至って簡単。食生活や体調の変化を質問、そして脈拍数を見るといった簡単なもの。隣の兄さんは心配そうにずっと見守ってくれていた。
そして診察を終え、しばらく考え込んだ医師の口から、それは突然告げられた。
「懐妊――⋯⋯?」
信じられない、と言わんばかりの声をあげたのは兄さんだ。
その姿を横目に、とてつもない罪悪感に襲われた。
恋人もいなかったはずの妹の妊娠を告げられれば無理もない。なんとなく日頃の体調から、それを予感させるものがあった私は、口を引き結ぶしかなかった。
ちぐはぐな私たち兄妹を見て、状況を察した医師は少しだけ苦笑い。