皇帝陛下、今宵あなたを殺害いたします―復讐するのに溺愛しないでください―【コミカライズ原作】
触れ合うだけで脳が麻痺するかのような魅惑的な唇。ひとつひとつ丁寧に触れていく優しい指先。
情熱的で扇情的、なのに共にいると誰よりも心安らぐあの人との夜は、この先どんな素敵に人に出会っても忘れることはないだろうと思っていた。
もう会えないと諦めていたのに、こんな形で再び出会えるなんて
――切なくも愛しい気持ちがこみ上げてくる。
「仕事はしばらく休ませてもらいなよ、アイリス。俺のことは大丈夫だから――自分の手で育てたいんだろう?」
私の心中を察した兄さんが、大きな手でくしゃくしゃと頭を撫でてくれた。
「兄さん⋯⋯」
振り見ると、兄さんの顔からは、さっきまでの動揺はすっかり消えていた。
「なにがあっても、お前はひとりじゃない。だけど、あとでしっかり説明しろよ?」
説明はごもっともだ。「ありがとう」と大きく頷くと、兄さんは人形のような顔をニッコリ綻ばせた。
頼もしくも重みのある言葉が、心にじぃんと染み渡る。
アンナさんにも報告して、少しの間休ませてもらおう。そして、兄さんにも迷惑をかけないように、しっかりと考えなければ。
そんな私たちの様子を見て安心したのか、先生はホッと息をつきながら立ち上がる。
「なにかあれば近所なんだから、また呼びなさい」
そして、生活においての注意点をいくかの残した先生は、兄さんに先導される形で宿舎へと帰っていった。