皇帝陛下、今宵あなたを殺害いたします―復讐するのに溺愛しないでください―【コミカライズ原作】
ここ、ヴァルフィエ帝国の“皇城”にあるダンスホールでは、年に一度皇帝陛下主催のもと、豪勢な舞踏会が開催されている。
一見、普通の舞踏会のように見えるけれど、よく見ると世間的に行われる貴族のパーティーとは似つかない。
この舞踏会のスローガンは『今宵は無礼講』
その名の通り、貴族だけでなく庶民までもが招待されるという異例のパーティー。
優美なロココのドレスを翻す貴族たち。それに対し質素なシャツやワンピースで応戦する庶民たち。ときには王族まで来ているという情報も聞いたこともある。
階級社会の薄れを狙った、この帝国独自の少し風変わりなイベントだと言われている。
もとより、つい三日前まで、私――アイリス=ロルシエは全くもって、こんなところへ来る予定なんて無かった。
別にパーティーになんて来たくないのに。なんで私が来なきゃならないのよ。
心でブツブツつぶやきながら、残りのワインを飲み干したき「こんばんは」という声が落ちてきた。
この声――。
ふと声の方見ると、頭ふたつ分高いそこから美しい折柄のジャケットを羽織った、体躯のいい男がこちらを見下ろしていた。
「美しいお嬢さん、おひとりですか?」
漆黒の瞳が、会場のオレンジと混じり合い甘やかにこらめく。
オニキスみたいな瞳だわ⋯⋯。
そこで、わずかに感じた既視感は気のせいとわかり、ホッと胸をなでおろした。
「“美しい”だなんておかしいですね。今宵は“仮面舞踏会”だというのに」