皇帝陛下、今宵あなたを殺害いたします―復讐するのに溺愛しないでください―【コミカライズ原作】
私は壁に背中を貼り付けたまま、眼の前の男を警戒したままその場にとどまる。そんな動く様子のない私を、赤毛の男は睨みつける。
「聞こえないのか? いくぞ」
「なんなの、突然。城になんて行くわけないじゃない⋯⋯」
反抗的な態度に、男は「なに?」と眉をピクリと反応させる。
ずいぶんと短気なようだが、信じ難い行動をしているのはそっちだ。
「言ったとおりよ。なんの命令を受けているのかわからないけれど、いきなりなんなの⋯⋯? 今すぐ帰ってちょうだい。あの男に会わなければならない理由なんてないわ」
同志である兄さんも動揺一色だ。いくらなんでも横暴すぎる。騎士団や皇帝だからとはいえ、何でも許されるかと思えば大間違いだ。
ひたすら心中が動揺と戸惑いに支配されている、そのとき――。
「ッチ……めんどくせえ」
悪態のセリフが飛んで来ると同時に、屈強な身体が頭上に差し迫っていた。
「――お前はなくとも、陛下がお前に用があるんだよ」
そして、一瞬だった――。
瞬時に逃げだそうとした私は、声を上げる間もなく担ぎ上げられ、その両腕に軽々と抱えられていたのだ。
「やっ! 離して!」と必死の抵抗をするものの、男は平然といなしながら私の膝裏と背中へと両腕を抱え直し歩き出す。胸を力いっぱい押し返すも、軍服の下にある鋼のような肉体は暴れてもビクリともしない。
だめだ、全然敵わない。