皇帝陛下、今宵あなたを殺害いたします―復讐するのに溺愛しないでください―【コミカライズ原作】
「レイニー、悪いがこいつはもらってくぞ。お前は明朝陛下のとこに行くように」
「――――」
皇帝命令と妹を天秤にかけ未だ葛藤しているようにも見える兄さん――。そんな困り果てた兄さんを残し、男は私の意思に反しその場をあとにしたのだった。
「城まで急げ」
宿舎の前に止められた馬車に私を押し込み、続けて乗り込んできた赤毛の彼は御者へ鋭く言い放つ。すると指示を待っていた馬車はすぐに皇城へと走り出した。
帝国騎士団長のカルム――それがおそらく彼の名前だ。兄さんの上司といえば、団長である彼しかいないはずだ。
ズバ抜けた剣術と柔軟な体術を持つ彼に敵う者はなく、まごうことなき帝国一の戦士だと言われている。
数ある部隊を束ね、視察時は皇帝の一番近くでその命を守っているらしく、皇帝――ルイナードからの信頼は最も厚いというのは、街でももっぱら有名な話。
そんな人物に私を連れて来るように命じるだなんて、あの男は何を考えているのだろう。
私たちの関係はあの日の裏切りで終わったというのに⋯⋯。