皇帝陛下、今宵あなたを殺害いたします―復讐するのに溺愛しないでください―【コミカライズ原作】
「アイリス、待っていた」
あの日と同じ、甘やかな声が私を呼ぶ。
出会った瞬間、たった一瞬感じた既視感は、気のせいだと思っていたの。
だって彼は。彼の瞳は―――
おそるおそる顔をあげた。
まず見えたのは、玉座から投げ出した軍事用の大きなロングブーツ。
それから、細身の革質のボトムに包まれる長い足に、揃いのジャケットが鬱陶しそうにバサリと払われているのが視界に入る。
胸元には純白のジャボがあしらわれ、同時にシャープな顎が目に入り――
そして、さらに視線を上へと向けると――
「はっ」と声を上げそうになる。
陶器のようにつるりとした肌、細く通った高い鼻、涼し気な目元には、さらりとした漆黒の髪がかかっていて⋯⋯
視線が交わった瞬間――慌てて両手で口元を押さえ、ガクガクと全身が震える。
「あの夜は楽しかったな⋯⋯」
黄金色の瞳が私をとらえて、氷のような美貌にニヒルな笑みを乗せられた。
わかる。はっきりと素顔は見れなかったけれど、わかる。
あの夜、暗闇の中で愛を交わした―――
彼が玉座にいた。
「ルイ⋯⋯ナード⋯⋯だったの」
私は崩れるようにその場に座り込んでいた。