皇帝陛下、今宵あなたを殺害いたします―復讐するのに溺愛しないでください―【コミカライズ原作】
あの一夜を宝物のように過ごしてきたこのひと月。思い出しては、何度も彼に恋い焦がれ、心を震わせ、切なくも、とても幸せな思いに浸っていたというのに。
『あなたを、守りたい』
『これは口説いていますよ』
なのに⋯⋯甘い台詞の裏で、ほくそ笑んでいたということだ。
心が、真っ黒に塗りつぶされた気分だ。
「――アイリス⋯⋯?」
ルイナードは長い睫毛に縁取られた大きな瞳を、微かに見開く。
私は待合室で拝借していたソレ――短剣を服の下から取り出し、ルイナードへと突きつけた。
何が起きるかわからないため、護身用に服の下に忍ばせていたものだ。
私たちの距離は1メートルほど。一歩踏み出せば彼の胸に刺さる距離だ。
許せない⋯⋯
どうして、こんなことをするの――!
脅しのつもりだった。しかし、前に踏み出そうとした、その瞬間――。
キィン――!
握っていた短剣が、部屋の反対側まで弾け飛ぶ。
早すぎて何か起きたのかわからない。
しかし、音もなく大きな影が瞬時に立ちはだかる。
「カルム⋯⋯何をしている⋯⋯」
私の喉が、ひゅっとなる。
光の速度で、ナイフを弾き飛ばしたのは、カルム団長の剣だ。
そして、その手に握る大きな剣を私の喉元へと突きつけ、ナイフよりも鋭い瞳で見おろしていた。
「陛下⋯⋯いくら婚約者であろうと、陛下へ刃を向けるものを⋯⋯私は許せません」
ゴクリ⋯⋯と喉が鳴る。