皇帝陛下、今宵あなたを殺害いたします―復讐するのに溺愛しないでください―【コミカライズ原作】
「どうですか? 今宵のお相手に私などは?」
胸に手を当てて、少しだけ腰を折るスマートなダンスのお誘い。なんとなくわかってはいたけど、明らかに上流階級の出身だ。
いかにも“貴族”っていう女性が、そこらじゅうにいるのに。
なんで、庶民の私を誘うの?
もしかしてからかっている⋯⋯?
くり抜かれた2つの穴をジッと覗きこみ、思惑を探っていると、男の口元が「ふふっ」と緩む。
「そんなに警戒しないでください。“無礼講”ですよ」
甘く変化した空気にドキンっと心が跳ねる。
基本的にこのような場で男性の誘いを拒むのはマナー違反。でもそれとは別に、この男の誘いに乗らないと、後々後悔するような気をおこさせる不思議な雰囲気を持っている。
気づけば、オニキスのようなその瞳に魅了されるがまま、白い手袋に手を重ねていた。
「⋯⋯はじめてなので、優しくリードしてくださるなら」
「もちろん、大切に扱います。姫君」
安堵したように微笑んだ彼は、手の甲にキスを落とし、手慣れたように私をダンスホールへとエスコートした。