皇帝陛下、今宵あなたを殺害いたします―復讐するのに溺愛しないでください―【コミカライズ原作】
漆黒のジャケットがバサリッへと投げ掛けられ、視界が遮断されてしまう。わたわたと顔を上げたそのときには、もうすでにルイナードの姿はなかった。
「なによ、ほんと⋯⋯」
全く何を考えているのかわからない。
まるで心配するような物言い。変に気遣う素振りを見せるのはやめてほしい。
本当に、訳がわからない。
自分のお腹へとそっと触れ、心の中で話しかける。
『あの夜が、過ちだとしても、あなただけは本物よ』
私の中にあるこの命は、例えルイナードの血を受け継いでいようとも、素直に愛おしいと思う。
「――アイリスさま」
「――っ!」
そこへ、いきなり名前を呼ばれた私は椅子の上で飛び上がる。
声の方を見ると少し離れた位置から「いきなり申し訳ありません」と初老のガタイのいい男性が、胸に手を当て腰をおっていた。
さっき、ルイナードに声をかけていた男性だ。
「わたくし、ジャドレさまの後任の宰相を努めております、クロードと申します」
パタパタと近づくと男性は「慌てずに」と手で制しながら、緩やかな笑みを浮かべ自己紹介をしてくれた。
少しシワのある濃い顔立ちで、特徴的な垂れ目。黒のローブを羽織るその柔和な男性にはどこか見覚えがある。