皇帝陛下、今宵あなたを殺害いたします―復讐するのに溺愛しないでください―【コミカライズ原作】

✳✳✳ 十年前――

執務室から飛び出した私は、ひたすら真っ暗な城下街を駆け抜けていた。


一刻も早くこの街から、この国から離れたくて。ルイナードの声を振り切るように。血の香りから目を背けるように。後ろから聞こえる兄さんの声を振り切るように。

ただ、ただ、走っていた。

場所も、時間も、どのくらい走ったのかも。全くわからない。


『アイリス――!』


私はルイナードの優しさに甘えすぎていたんだろうか。

だから彼はお父さまを手に掛けたんだろうか。
だからあんな冷たい目で私を見つめたのだろうか。

そう考えたら、ただひたすら悲しくて。息苦しくて。立ち止まっていることができなかった。

いっそ消えて、この世界のどこかに溶けてしまいたい⋯⋯そんな思い一色だった。


『アイリス――! 待てって!』


兄さんが追いついてしまった。

思いっきり腕を取られ、その反動でふたりとも勢く転がる。身体を強く打ち付けた。

打った箇所がズキズキ痛い。肘からは血が流れている。でもそれ以上に、心が痛くて立ち上がれない。
< 82 / 305 >

この作品をシェア

pagetop