皇帝陛下、今宵あなたを殺害いたします―復讐するのに溺愛しないでください―【コミカライズ原作】
✳✳✳ 十年前――
執務室から飛び出した私は、ひたすら真っ暗な城下街を駆け抜けていた。
一刻も早くこの街から、この国から離れたくて。ルイナードの声を振り切るように。血の香りから目を背けるように。後ろから聞こえる兄さんの声を振り切るように。
ただ、ただ、走っていた。
場所も、時間も、どのくらい走ったのかも。全くわからない。
『アイリス――!』
私はルイナードの優しさに甘えすぎていたんだろうか。
だから彼はお父さまを手に掛けたんだろうか。
だからあんな冷たい目で私を見つめたのだろうか。
そう考えたら、ただひたすら悲しくて。息苦しくて。立ち止まっていることができなかった。
いっそ消えて、この世界のどこかに溶けてしまいたい⋯⋯そんな思い一色だった。
『アイリス――! 待てって!』
兄さんが追いついてしまった。
思いっきり腕を取られ、その反動でふたりとも勢く転がる。身体を強く打ち付けた。
打った箇所がズキズキ痛い。肘からは血が流れている。でもそれ以上に、心が痛くて立ち上がれない。