皇帝陛下、今宵あなたを殺害いたします―復讐するのに溺愛しないでください―【コミカライズ原作】
「舞踏会に陛下が来ないと言ったのは本当だぞ? 俺はお前のことを騙していないし、今回の件については何も聞いていなかった。カルムさんがうちにやってきたときに、はじめて聞いたんだよ」
『陛下命令でアイリス=ロルシエを迎えに来た』
「密偵までつけられているとは思わなかったが⋯⋯まぁ、陛下が真剣にお前と子供を迎えようとしていることは伝わってきた」
そう言って苦笑しながら、冷めきった紅茶にミルクをおとし口元に運ぶ。
どうやら、密偵をつけらていたようだ。
「だから――この際、お前と陛下の溝が埋まればいいとは思っているよ。俺は父さんの事件は、アイリスがなんて言おうと、完全なる組織の仕業だと思っているし。何より、幼い頃からグランティエ家に忠誠を誓ってこれまで生きてきたんだ。俺は陛下を信じているから」
信じる――。ドスンッと心に槍がつき刺さる。
わかってる。ルイナードの一番近くにいたのは私だ。本当であれば、私が最もそうすべき存在なのだ。
しかし――狂しいほどの攻撃的な瞳。私はそれを信じきる強さを、ちっとも持ち合わせていなくて⋯⋯。
築き上げてきた、愛とか、信頼とか⋯⋯そんなものは一瞬にして砕け散ってしまった。
あのとき、執務室に駆けつけなければ、私も兄さんと同じ見解を持てたのだろうか。
今も彼の隣で笑っていたんだろうか。
むしろ、彼にそうさせてしまったのは、私なんだろうか――