秘密の子育てだったのに、極上御曹司の溺愛から逃れられない
 私はなにも言わず、再び足を進める相良さんのコートを握ったまま並んで歩く。

 相良さんの温かさに触れ、すっかり甘やかされて、離れるときが迫っている現状が怖くなった。

 このままじゃダメなのに。

 彼のコートを持つ手にぎゅっと力が入る。

 ……あなたが好きだと伝えられたら――。

 そう思考していて、ふいに気がついた。

 忘れられないなら、相良さんはどうしてその女性に想いを伝えないのだろう。

 それとも私が知らないだけで、実はもう恋人になっているとか? でも、それなら私たちを家になんて置いておかないよね。……もう会えない事情があるのかな。

 じゃなきゃこんなに素敵な人だもん。きっとうまくいくと思う。

 悲痛な思いが止めどなく波立った。
< 120 / 213 >

この作品をシェア

pagetop