秘密の子育てだったのに、極上御曹司の溺愛から逃れられない
「相良さん」

 呼ぶと同時に、私は相良さんの服の首もとを引き寄せ、彼の唇に唇を重ねた。伝わらないとわかっていても、口にできない想いを込めるようにささぐ。

 胸が焼けるほど愛おしかった。

 唇を離す。相良さんは、芯から驚いたように大きく目を見開いていた。

「……ごめんなさい。私は、相良さんとは一緒にいられません。新しい家が見つかったら、約束通り私たちはここを出ていきます」

 私は、できるだけ毅然とした態度で放つ。

 私は恵麻もあなたも守りたい。

 すると、言い終えた私の肩を相良さんが掴んだ。

「それが君の本心? すれ違っていたとわかったとき、君も同じ想いでいてくれたのだと思った。……俺の勘違いだったのか?」

 嘆くようにぶつけられ、鼻の奥がツンと痛み、まぶたの裏に熱いものが込み上げてくるのを感じた。
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