秘密の子育てだったのに、極上御曹司の溺愛から逃れられない
本当の幸せ
 電車を降り、オフィス街を恵麻と手を繋ぎながら歩く。昨夜は雪が降ったのか、朝早くまだそれほど踏みしめられていないアスファルトは、足を進めるたびに普段とは違う音を鳴らしていた。

「こうやってふたりで歩いて行くの、久しぶりだね」

 言い終えた私が視線を落とすと、恵麻は目をまん丸にしてじっとこちらを見つめていた。

「恵麻?」

 私は不思議に思い、立ち止まる。すると、恵麻は、私に視線を縫いつけたまま言った。

「ママ、どこかいたい?」

「えっ? ううん。どこも痛くないけど、どうして?」

 私の答えに、恵麻が眉をしかめ、唇を尖らせる。私が思わず屈んでその顔を覗き込むと、恵麻は悲しげにぽつりと漏らした。

「だってママ、どこかいたいときのかおしてるよ」

 その言葉に、私ははっと息を呑む。
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