秘密の子育てだったのに、極上御曹司の溺愛から逃れられない

「恵麻……」

　自分では顔に出していないつもりだったのに。こんな小さな子にも気を遣わせてしまっていたなんて、母親失格だ。

　昨日動物園に行ってマンションで相良さんと話した私は、今朝、相良さんに【おはようございます。今日は先に行きます】とメモと朝食を残し、恵麻と先に家を出た。

　あんなふうに誠実に想いを伝えてくれた相良さんを拒み、合わせる顔がなかった。

　すぐにでもマンションを出ようかとも思ったけれど、次の家が見つかるまではお手伝いさんの代わりをすると約束したのだから、それこそ勝手に放り出すなんて礼儀知らずも良いところ。

　悩んだ結果、私はすぐにでも新しい家を見つけて、出ていくことに決めた。

　心配そうな顔つきでこちらを見上げる恵麻に、私は心の中で改めて奮起し、表情を締めなおす。

「本当になんにもないよ。昨日動物園ではしゃぎすぎて疲れちゃったのかな。心配かけてごめんね」

　恵麻はいささか考えるように何度も目を瞬かせていたけれど、納得したのか、その顔は徐々に晴れ晴れとしていく。