秘密の子育てだったのに、極上御曹司の溺愛から逃れられない
出社して朝から通常業務を終えた私は、先日栗林さんに教わった消耗品の発注書の作成作業を行っていた。ひと通り書類を確認し直し、ふっとひと息つく。
腕時計で時間を確認すると、時刻は十一時半を回ったところだった。ふと、辺りを見渡していたら、デスクで電話対応中だった栗林さんが目に入った。
栗林さんは受話器を顔と肩の間に挟み、慌ただしい様子でメモを取っている。
なにかあったのかな……。
不安になり眺めていると、電話を終えて受話器を置いたばかりの栗林さんが勢いよくこちらを向いた。
思い切り目が合い、私は思わず小さく肩を跳ねさせる。そのまま私のデスクのほうへやってくる栗林さんの姿に、私も椅子から立ち上がった。
「花里さん。悪いんだけど、今から買い物を頼めるかな。あさっての来客が急に今日の十五時訪問に変更になったみたいで。その取引先の部長さん、この時期になると『きこりや』の限定いちごロールケーキが必須なのよ」
栗林さんが、先ほどのメモを片手に早口で言う。
『きこりや』のロールケーキ? 『きこりや』は、たしかこのビルからそれほど遠くない場所にある洋菓子店だ。洋菓子店にしては珍しくあまり目立たない路地裏にある店だが、名物のロールケーキがおいしくて人気があると、つい最近オフィスの休憩室にあった雑誌で読んだ。