秘密の子育てだったのに、極上御曹司の溺愛から逃れられない
 
「なんとか買えてよかった」

 社用スマートフォンに送ってもらった地図を頼りに『きこりや』に着いた私は、無事にお目当ての限定いちごのロールケーキを買うことができた。

 十人ほどの列ができているのを見たときはもうダメかと思った。でも、残っていてよかったな。

 私はお店のロゴがプリントされたケーキ箱を手に、ほっと安堵する。

 このままお昼休憩に入っていいって言われたけれど、先にこれを持って帰ろうか。この寒さだし、念のためドライアイスも入れてもらったから溶けるはずはないにしても、お客様にお出しするお菓子だと思うと持っていても落ち着かないし。

 吹きつけた冷たい風に頬を刺され、私はコートの襟もとを伸ばして肩をすぼめた。

 早足でオフィスへ戻ろうと大通りに出たところで、私の行く手に黒い大きな影が立ちはだかった。

「ご無沙汰しております」

 その人物の登場に、私の鼓動が大きく跳ねる。

 昨日も会ったというのに、皮肉めいてそう発したのは、神田さんだった。
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