秘密の子育てだったのに、極上御曹司の溺愛から逃れられない
 この寒空の中でも眉ひとつ動かさない彼は、今日も口角だけを上げて不自然な笑顔を浮かべる。

「……今日は、なんの用ですか?」

 心臓が震えているのを隠し、私は平静を装いつつ問いかけた。

 こんなタイミングだとは予測していなかったけれど、昨日この人が目の前に現れてから、近いうちにまた私に会いにくるのはわかっていた。

 思っていたよりもずいぶん早い。この人にとって私たちは、一刻も早く排除したい存在なのだろう。

「相良さんの部屋にいる状況で申し上げても説得力がないと思いますけど、以前お約束した話を彼に打ち明けるつもりはありません。新しく住む場所が見つかったら、ちゃんと出ていきます」

 すでに心を決めていた私は、きっぱりと放つ。それを黙って聞いていた神田さんが、おもむろに口を開いた。

「私は別にあなた方親子が憎いわけではございません。ただ、あなた方の存在はグループにとって、社長にとって、それに大和様にとって火種にしかなり得ない。これまで社長たちが苦労して築き上げてきたものを一気に飲み込んでしまいかねないのです」

 言い終えた神田さんの表情が消え、冷たい眼差しが私を貫いた。私は気圧されたように息を吸い込む。
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