秘密の子育てだったのに、極上御曹司の溺愛から逃れられない
 唇を寄せ、俺を拒んだときの彼女は、今にも泣きそうな顔をしていた。その姿に、天音が俺を拒んだのにはなにかわけがあるようにしか思えなかった。

 しかし、無理に暴こうとしても天音は口を割らないだろう。それどころか、今すぐ俺の前から消えてしまう可能性だってあった。

 想像するだけで心がねじ切れそうになる。

 行方がわからない。手がかりもなにもない。あんな思い、もう二度としたくなかった。

 君の悲しみも痛みもすべてを受け止めてあげたいのに。寄り添いたいと思っていても、君は逃げていく。

 思考が行き場を失い、俺が険しく眉をひそめたそんなときだった。

 背後でドアが開く音がして、恵麻ちゃんを寝かしつけた天音がリビングに戻ってきた。

「相良さん……」

 俺の姿を認めた天音が、いささか驚いたような顔つきでつぶやく。

 彼女を見ているだけで激しく心が震えた。愛おしくて、愛おしくて、苦しかった。
< 154 / 213 >

この作品をシェア

pagetop