秘密の子育てだったのに、極上御曹司の溺愛から逃れられない
「……私は、恵麻の父親を愛しています。だから、ここで相良さんとは暮らせません」

 消え入りそうな声で発せられた言葉に、俺は打ちのめされる。思わず腕の力が緩み、抜け出した彼女は、走ってゲストルームのドアの向こうへと消えていった。

 ……恵麻ちゃんの父親を愛している、か。

 噛みしめると、嫉妬がちりりと胸を焼く。

 想い合っていると思っていたのも本当にただの俺の勘違いで、天音は恵麻ちゃんの父親を想い続けていただけなのか?

 あのキスにも深い意味なんてなかった?

 頭の中が真っ白になり、気が狂いそうだった。

 自分の鼓動が耳に届きそうなほど波打つ中、それをかき消すように突然バイブレーションの音が鳴り響いた。視界の端に、ダイニングテーブルの上でなにかが振動しているのを捉える。

 天音のスマートフォンか。

 そう思ったと同時に、ディスプレイに表示されていた電話番号が視界に飛び込んできた。衝撃が俺の心を襲う。
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