秘密の子育てだったのに、極上御曹司の溺愛から逃れられない

「いまどこにいる」

　俺はスマートフォンを強く握りしめ、込み上げてくる怒りをかろうじて堪えながら問いかける。神田から返答があると、俺は一方的に通話を切り、自室からコートだけを手に取って玄関へと急ぐ。

　靴を履いてシューズボックスの上にある車の鍵を握りしめたところで、尋常ではなさそうな物音を聞きつけた天音が玄関までやってきた。

「……どうかしたんですか？」

　先ほどあんなやり取りがあったばかりなのに気にしてくれたのか。

　悩んだのだろう。気まずそうに目を伏せ、遠慮がちに言う彼女に、俺は目を細めて薄い笑みを向ける。

「出かけてくる。遅くなるかもしれないけど、今日は待っていてくれないか。帰ったら、改めて君に伝えたいことがあるんだ」

　天音の目をまっすぐに見据えて言った。

　困惑した様子の彼女の返事も待たずに「じゃあ、行ってくる」と告げ、俺は到着したエレベーターへ乗り込む。

　エレベーターのドアが閉まり、不安に強張った天音の顔が見えなくなった。急降下する箱の中で、俺は再び怒りが静かに燃え立ってくるのを感じる。

　俺の知らないすべてが明らかになる。そう思うとともに、なにも気づかずにいた今までの自分が不甲斐なくて、俺は奥歯を思い切り噛みしめながら地上へ到着するのを待った。