秘密の子育てだったのに、極上御曹司の溺愛から逃れられない
「やっぱりあの子は俺の……。それがわかっていたのに、お前は天音を俺から遠ざけたのか?」

「わかっていたからです。彼女が離れるのを了承したあとも大和様が彼女を捜されていたので、根回しして見つからないようにいたしました。それなのに、まさかこんなふうに再会されるなんて」

 俺は愕然として言葉を失った。

 目の前の神田が、一瞬なにを言っているのかわからなかった。

 神田はもう十五年以上父のそばで秘書として働いていて、グループのために、社長のために、ときに俺のために、いつも最善の選択をしてグループ全体を支えてくれている男だった。

 しかし、そのせいで。俺のせいで、ふたりにつらい思いをさせたのか。

 いつのまにか噛みしめていた唇が切れ、血の味がした。急き立てるように感情が高ぶる。

「お前は彼女たちの人生を狂わせたんだぞ! 母ひとり、子ひとり、大変な思いをしながら必死に頑張ってきたふたりの生活を、お前はまた……」

 なによりも、今日までなにも気づけなかった自分に腹が立ちすぎて死にそうだった。
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