秘密の子育てだったのに、極上御曹司の溺愛から逃れられない
「恵麻、新しい保育所楽しみ?」

 私が向かい風に険しい顔つきで前へ進んでいた恵麻に問いかけると、恵麻のまん丸く大きな目がパッと輝いた。

「うん! たのしみ」

「ならよかった」

 これから新しい保育所に行くのを実感し直したのか、恵麻の足取りが期待で軽やかになる。

 駅までは歩いて十分ほどだけれど、いったいどこまで持つかな。

 早くも寒さで赤くなった小ぶりな鼻と、赤ちゃんのときから変わらない白く柔らかそうな頬っぺたを見ながら心の中で思う。

 最近、恵麻はどこに行くにも自分で歩きたがる。まだ体力もそれほどなくてある程度歩いたら疲れて抱っこをせがまれてしまうのだけれど、自転車でなく、必ず『あるいていく!』と言うようになった。

 それを見越して今日も早めに家を出た。十二月に入り寒さも一気に冬めいてきたように感じる。

 しかし、ふたりで手を繋ぎながら歩く朝は私にとっても恵麻と過ごせる一日の中の貴重なひとときで、私もこの時間が好きだった。
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