秘密の子育てだったのに、極上御曹司の溺愛から逃れられない
「でも、どうしても君と話がしたいんだ。空いている時間でいい。連絡をくれたらどこにでも行くから」

 そう言って相良さんは、スーツのポケットから取り出した名刺を一枚私に握らせる。

「待ってる」

 そう言うと、相良さんは恵麻に「驚かせてごめんね」と困ったように告げてから先にビルの中へ消えていった。

「ママ、あのひとおともだち?」

「……お友達ではないかな。でも、ママの知ってる、大切な人なの」

 私の言葉に、恵麻は一瞬、相良さんが消えていったビルの出入り口に視線を送る。

「あのひとかなしそうだったね。ママとおはなししたかったみたい。たいせつなひとなのにだめなの?」

 私は、心配そうに眉尻を下げる恵麻の頭をニット帽の上から撫でる。

「ううん。そうだよね。ママの言い方が悪くて悲しませちゃったかもしれない。今度謝らないと」

「うん。ちゃんとごめんなさいしたらゆるしてくれるよ。だいじょうぶ!」

 恵麻の屈託のない笑顔がとても眩しい。

 あの人があなたのお父さんだよって教えてあげられなくてごめんね。
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