秘密の子育てだったのに、極上御曹司の溺愛から逃れられない
 しかし、心配なこともある。俺が今日は遅くなるから先に寝ていてほしいと言っても、天音は必ず起きて俺の帰りを待っていてくれるのだ。

 つい先日もそうだったから今日も急いで帰ってきたのだけれど、眠ってくれたならよかった。

 安堵した俺はコートに手を掛けながらリビングの奥へと進む。すると、ダイニングテーブルに突っ伏して眠ってしまっている天音を見つけた。

 俺の口から「あ」と短い声が漏れる。

 限界がきてここで眠ってしまったのか。

 風邪を引いてはいけないと、俺は慌ててクローゼットから取ってきた毛布を起こさないようにそっと彼女にかける。そのまま無防備なその寝顔をおもむろに覗き込んだ。

 閉じ合わせた長いまつ毛が呼吸をするごとに揺れている。すぐそばまで近づくと、規則正しい寝息が微かに耳に届いた。心の底から愛おしさが湧き上がる。

 今すぐ彼女の細く綺麗な髪に触れ、頭を撫でて労わりたい衝動に駆られた。だが、起こしたくはないので必死に耐える。
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