秘密の子育てだったのに、極上御曹司の溺愛から逃れられない
 気持ちよさそうに眠っている。疲れていたんだろうな。

 慣れない職場で働いたあと、育児と家事までこなして朝も早い。ここでの生活にも気を張っているだろうから、本当に待たないで休んでほしいのに。

 家事だってさせたいわけじゃない。お手伝いさんだってもともと雇っていなかった。ただ天音がここにいるには理由が必要だと思い、嘘をついて提案した。

 彼女の性格を考えると、なにもしないでここにいるなんてできないだろうから。

 俺が少しの罪悪感に眉尻を下げながら天音の寝顔を見つめていると、ふいに彼女が「……んっ」と小さな唸り声を上げてまぶたを持ち上げた。

 俺の姿を認識したのか、とろんとしていた天音の目が大きく見開かれる。

「あ、おかえりなさい! すみません。私、こんなところで……」

 跳ねるように起き上がった彼女が、おろおろと慌てだす。そんな彼女がいじらしくて、俺は気づくと彼女の腕を引いて抱きしめていた。
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