秘密の子育てだったのに、極上御曹司の溺愛から逃れられない
「さ、がらさん……?」

 腕の中から、困惑する彼女の声がする。

「ただいま」

 俺がささやくように言うと、数秒間の穏やかな沈黙のあと、「……おかえりなさい」とか細い返事があった。沈黙の間、天音は脳内でパニックを起こしていたのだろうと想像するだけで、彼女への想いがさらに高まる。

 緊張しているのか、彼女の両肩は不自然に上がっていて身体もガチガチだった。

 俺は噴き出しそうになるのをぐっと堪え、発する。

「君は何度言っても先に寝てくれないから、これから俺が遅く帰った日に起きていたらこうやって出迎えてもらうことにするよ」

 俺の言葉に、腕の中の天音が「えっ!?」と狼狽えだす。

 つい抱きしめてしまったのをごまかしたくて思いついたのだけれど、良案だったかもしれない。天音には多少強引さが必要なのだ。
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