秘密の子育てだったのに、極上御曹司の溺愛から逃れられない
普通の家族
「おばあちゃん、きょうはげんきかな」

 消毒液や薬品の匂いがする廊下をいそいそと歩く恵麻がつぶやいた。

「おばあちゃんに会えるのが嬉しいのはわかるけど、騒いじゃダメだよ」

 言い終えた私は、待合室で談笑していたおじいちゃんたちが恵麻に笑顔を向けてくれているのを目にして、「こんにちは」と会釈をしながら通り過ぎる。

 エレベーターを五階で降りて、一番右奥にある部屋。見慣れた白のスライドドア前で、私たちは足を止めた。

「わかってるよ。しー、でしょ」

 声を潜める恵麻が、人差し指を立てて唇にあてる。私も真似をして吐息のような声で「そう」と返すと、恵麻はふふっと首をすくめて笑った。

 私は部屋番号の下につけられた、【花里友梨(ゆり)】のプレートを横目でたしかめてから白のスライドドアを横に開いた。
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