初恋交響楽
スーツ姿のその男に、確信した。

指通りがよさそうな黒い髪に端正なその顔立ちは、間違いなく彼である。

「この人、なの…?」

ああ、間違いない…。

「そう、この人なんだ。

老舗百貨店の『成田屋』の副社長さんだそうだ」

「へえ…」

わたしはもう1度、お見合い写真に視線を落とした。

間違いない、この人は中学時代の同級生だった大国巡くんだ。

わたしも人のことを言えたことじゃないけれど、何で独身なのよ…。

副社長と言うものすごくいい肩書きを持っているくせに、何で結婚していないのよ…。

わたしは今、どんな顔で彼のお見合い写真を見ているのだろう?

ーー西尾はないかな〜!

中学時代に言われた彼のその言葉が頭の中によみがえってきて、わたしはお見合い写真をたたきつけたい衝動に駆られた。

 * * *
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