Crush～いつも君を想う～

4-4*大切にしたい人〜林太郎目線〜

仕事以外で訪ねてきたのは、今日が初めてである。

養父の父ーー俺にとっては祖父に当たるーーからお世話になっている呉服店『堂前呉服店』の前に、俺は立っていた。

オフィス街に溶け込むようにして立っているその店は、江戸時代からと歴史が長い。

和服の商取引は歴史が古いけど、現代にまで伝わる多くの呉服商は江戸時代に起源を持っているのだ。

店の外から中を覗き込むと、肩までの黒い髪をハーフアップにしている彼女が着物姿で店内を歩いていた。

彼女はいつも『ながはま屋』にきてくれる、堂前千華子（ﾄﾞｳﾏｴﾁｶｺ）さんだ。

店内に客がいないことを確認すると、俺は店の中に足を踏み入れた。

「いらっしゃ…ああ、長濱さん」

相手が俺だとわかると、堂前さんは柔らかく微笑んだ。