Crush~いつも君を想う~
「あの…」

林太郎さんは声を出した。

「何か?」

「顔を見ることは、できませんか?

声は、かけませんので…」

そう言った林太郎さんに、
「はい」

彼は首を縦に振ってうなずいた。

病室の前に立つと、
「どうぞ」
と、彼は言ってドアを開けた。

病室の中にはベッドが1つだけあって、そのベッドに年老いたニット帽をかぶった女性が横たわっていた。

あの人が林太郎さんの産みの母なんだと、私は思った。

林太郎さんは病室に足を踏み入れると、ベッドに向かってゆっくりと歩み寄った。

その瞬間、ベッドのうえにいる彼女の目がゆっくりと開いた。

彼女の顔が林太郎さんの方に向けられる。

何か言いたいと言うように口を開いたけれど、声を出すことができない。
< 149 / 200 >

この作品をシェア

pagetop