忘愛症候群
「保健室」
「は?」
「だって熱あるっぽいから?」
「いや、大丈夫だから」
「どこが?こんなに顔赤いのに」
「何、誘ってんの?」
「はぁ??」
誘ってるって何が?話が噛みあわない。
ハァ…と溜め息をついたときあたしは“誘ってるの?”の意味を理解した、と同時に今度はあたしが赤くなる番だった。
「なっ、な…さ、誘ってなんかないし!」
完全にどもって、こんなのあたしが意識してるみたいじゃん。
悔しい、一真だって赤くなってたくせに。
この状況どうにかしたい…と思ったときSHR始まりの鐘が学校中に鳴り響いた。
「本鈴鳴った!あたしもう行くから!」
あぁ本鈴様ありがとう。
おかげで変な空気の中から抜け出すことができました。
そして鐘が鳴り終える前に教室に入らないと遅刻だ。
「愛」
「何!?」
急いでるのに呼び止めないでよ。
でも名前を呼ばれて胸が一瞬高鳴ったのは秘密。
「好きだよ」
紡がれた愛の言葉。
簡単に告げた一真。
恥ずかしめもなく微笑みながら、記憶のないあたしにストレートに気持ちを告げた。
顔が赤くないはずがない。
上手く言葉が出てこない。
上手く目を合わせることが出来なくてすごい泳ぐ。
胸が…心臓が痛い、キュンどころじゃない。
撃ち抜かれた、矢が刺さったみたいに何かがあたしの何かを射抜いた。
「うるさいっ。バーカっ」
あたしはとんだ天邪鬼だ。
素直になればいいのに素直になれない。
一真に悪態をついて鐘が鳴り終えるギリギリで教室に滑り込んだ。
息を整えながら席に着いたあたしに、隣の席のトモカは「朝からお熱いお2人ね~」と茶化してきた。
全くそんなんじゃないし、と誤魔化してその場をやり過ごした。
____________…
その日のお昼、中庭にあたしと一真、ケンとトモカがいた。
いつもは一緒にご飯を食べていなかったから何ともまぁ珍メンバーというところだと思う。
「……」
「……」
誰も何もしゃべらない。
アイコンタクトで「何?」「喋ろよ」「いや、何を?」なんて会話するけど誰も口を開かない。
一真は目を合わさず俯いてるし、何かを考え込んでいるように。
それにこうやってケンとトモカを呼び出したのは一真だ。
なのに本人ときたら目も合さず口も開かずで……集まってから5分は経っている。
何を考えて何を悩んでいるのか分からないけどとりあえず2人を呼んだ理由だけは知りたい。