忘愛症候群
「一真……2人を呼んでおいて放置はしないで、早く話してよ」
「ん、あぁ。ケンとトモカには話しておこうと思って呼んだ」
「「何を?」」
あたしにはさほど関係ないだろうからお弁当食べながら耳だけ傾けとけばいいか。
あたしだけしか食べてないから咀嚼音が良く聞こえてしまう。
「実は」
んぅ~、お母さんのから揚げ本当美味しい。
「愛は俺だけの記憶がない。俺のことを知らないんだ」
だし巻きも美味し___え?
今何か暴露されたような。
3人を見てみればケンとトモカは言葉の意味が分からないと言いたげな表情で高速瞬きをしている。
「ちょちょ、ちょっと待て一真」
頭を悩ませながらもケンは一真に問う、どういうことだ?と。
すると一真は分かりやすく昨日のことを2人に話し始めた。
「___というわけ」
話を聞き終えた2人は口を開いて唖然としていた。
これ魂抜けちゃってるんじゃない?息してる?
オーイと2人の顔の前で手を振れば現実に戻ってきてくれて、ケンに肩を強くつかまれた。
「おい本当かよ!?記憶がねぇって!」
「ほっ、本当だよ。あ、でも一真以外の人は覚えてるから大丈夫」
「愛、大丈夫じゃないよ?水島君のこと忘れたんだよ!?」
「……っ」
大好きな人に忘れられるって辛いことなんだよ?
そう続けて言ったトモカの言葉に鈍器で殴られたかのように頭がグワングワンと揺れた。
それからなんで記憶を無くしたのか、など昨日と同じようなことを訊かれ分からないと答えておいた。
それでも2人はなぜだろう?とあたしにも原因は分からないのに悩んで、考え込んでいる。
「とりあえずお前ら2人には言ったけど、口外はすんなよ。言ったら許さねぇからな」
脅すような笑みでそう言った一真に、2人はビビって首がもげるんじゃないかってくらい強く速く縦に振った。
「愛のこと、よろしくな」
と、悲しげな声の一真。
その声のせいで胸の奥が苦しくなって目頭が熱を持つ。
どうしてだか無償に抱きしめたくなった。
「「全力でサポートする!!」」
ケンとトモカの言葉もあたしの心を熱くさせた。
ごめん、ごめんね一真。
思い出すから…絶対思い出すから、忘れたりなんかしてごめんね。
あたしはまた、謝ることしかできない。
ヒュウ___と風が吹き、あたしの髪をさらっていった。
それはどこか寂しい風だった。
___…新学期はこれから始まる苦しくて悲しい物語の始まりだということを…まだ誰も知らなかった。