忘愛症候群
「1から…違うか、0からのスタートだな」
「0から…」
ゼロからのスタートって。
「…大変、じゃん」
「おかげさまで。でも」
でも…何?
一真が熱を帯びた瞳で見つめてきて胸が高鳴った。
「初恋の甘酸っぱい気持ち、もう一度体験できるってすごくね?」
「…っバカじゃん」
「んだと。バカとは何だ」
バカだよ、バカバカバーカっ。
「バカみたいにポジティブすぎでしょ」
「ポジティブに生きないと人生楽しくないじゃん?」
一真は根っからのポジティブ人間らしい。
まるで悩みなんて抱えてなさそう。
と思ってたら視線を感じて一真を見るとジッとあたしを見つめてて顔を逸らしたら「こっち向け」と脳を揺さぶられるような甘い声に操られ、一真に視線を戻した。
満足げに笑う一真に少しだけムッとした。
「俺のこと嫌い?」
「……」
「愛、あーい」
「嫌い……じゃない」
その声で呼ばれると、言われると自分の意思とは反対に従ってしまう。
嫌いじゃないというのを間を溜めて言ったら「溜めすぎ。また嫌いって言われたかと思った」と一真は返した。
“また”ってことは出会った当初は一真のこと「嫌い」って言ってたんだ。
でも嫌いって言われたということは、何かが原因でそう言われたってことだよね?
一体何をしたの。
「嫌われた原因は?」
と訊けば今度は一真が「あー…」と言いながら目を逸らした。
「人にはいろいろ言わせておいて自分は何も言わないんだ?」
「わーった言うよ」
観念した一真は頭をガシガシ掻いて答えた。
「こんな顔だから遊んでる。女たらしって思われたんだよ」
「なるほど、その通りね」
だってその言葉まんまだから。
でも遊んでそうってだけで実際は遊んでないと思う。
何故だかそう思える。
「ひでぇ」と眉を下げた一真は分かりやすく落ち込んで、あたしは少なからず言い方悪かったなと思ったから「ごめん」と言って頭をポンポンとしたのに、その手を一真に掴まれ腕を引かれ___その腕に抱きしめられていた。
「ハハッ、真っ赤」
「言うな!」
一真のせいでしょ!
抜け出そうとしても抜け出す力よりも強い力で抱きしめてくるから、抜け出すことは不可能。
めちゃくそ恥ずかしい…。
「愛」
「…何」
「好き」
「……っ」
「大好き」
「~っ…五月蝿い」
「好きだよ」
「い、言うなっ」
「そうやって怒りながら照れるとこも好き」
「…黙れバカ」
「だから俺と恋しよっか」
「……」
一真と…恋したい。
そう思いを込めて頷いた。
「ねぇチューしていい?」
「それは許さん」
まだそこまでは許さないから。
___…二度目の悲劇まで、あと少し。