忘愛症候群
2度目
それから何回か一真とデートをした。
全て一真からの誘いで、そのデートコースは付き合いたての頃のデートコースだって言われ、一真とこんな素敵なところに来て楽しんで沢山幸せを感じてたんだろうなって無い記憶を辿ったりなんかもした。
デートをしたことで色んな一真を知ることができた。
ジェットコースターやお化け屋敷は好きだけどコーヒーカップやメリーゴーランドとか回るの物は苦手ということ。
肉食動物はカッコよくて好きだけど、小動物の方がもっと好きだということ。
笑ったらえくぼが出るし、照れると眉が少しだけ下がる、怒りそうになると耳たぶを触る癖があるとか。
室は旅行好きで、プチ旅行はよくするし外国は年に2回は行くらしい。
料理が上手だったり、掃除が苦手だったり、苦いものが嫌いだったり。
この3週間ほどで色んな顔、癖、好きなもの嫌いなものを知ることができた。
やっぱり記憶は戻らないけど、1つ1つ色んな一真を追加していってる。
「あーい」
「何?」
今日はあたしの家で過ごしてて、親もお兄ちゃんもいないから2人きりという状況下。
キッチンにいるあたしにリビングからあたしを呼ぶ一真に返事をする。
すっかり聴き慣れた声。
だけど名前を呼ばれると、まだドキドキするから心臓が持ちそうになくて心配である。
「コーラちょうだい」
「はいはい」
冷蔵庫にあるコーラをコップに注いで一真の元に持っていくと「ありがと」と花が満開になってしまいそうな笑顔でお礼を言われ、一真が自分の隣をポンポン叩くもんだから仕方なく、そう仕方なく座ってあげた。
「で、愛。俺のこと好きになった?」
「まだまだだね」
意地悪く言うと口角を上げて彼を見た。
「わーお、さっすが愛。手強いな」
「つーか即答すんなよ」ってコツンとおでこを突かれてほんのり頬を赤らめているだろうあたし。
そんな小さなことが嬉しい。
その笑顔を見れることが幸せ。
一真の言葉が、一真の行動があたしの感情を簡単に攫っていく。
気づいてないだろうけど一真のせいで感情がコロコロ変わっちゃうんだよ?
プレゼントを貰って「ありがとう」て馬鹿みたいにクールに決めてるけど、実はすっごい喜んでるんだよ。
学校で女子に囲まれたりベタベタ触られて、告白されるの見てしまったりしたときは凹んだり嫉妬したりもするんだよ。
ちょっと言い合いになって一真が「頭冷やしなよ」って冷たく言って家に走って帰って…悲しくて泣いたりしたんだよ。
遊びに行ったりしたときは一緒にいるのがすごい楽しかった。
そんなこと、一真は知らないだろうけど。
「ごちそーさま」
両親もお兄ちゃんも出かけてて、帰ってくるのが遅いから一真と夕食を作って仲よく食べ終えた。
やっぱり一真と作る料理は何でも美味しい。
「さすが一真」
「何が?」
「料理上手だから」
「じゃあ俺、愛の胃袋掴んだって訳だ?」
「そうそう。掴んだ掴んだ」
そりゃあガッツリ胃袋掴まれちゃいましたよ。
「じゃああと少しだな」
何があと少しかは分からないけど、分からないことが1つあるって言うか気になってることがある。