忘愛症候群
「ねぇ、前はあたしが好きになるまでどれくらいかかったの?」
「2年」
に、2年!?そんなにかかったの?
昔のあたしそんなに頑固だったの?それかバカが付くほど鈍感女?
よく2年も好きでいてくれたね。
「ありがとう」
覚えてはないけど、そう伝えずにはいられなかった。
「フッ……じゃあそろそろ帰るわ」
片付けも終わって立ち上がった一真は、荷物を手に持って玄関へと行った。
お見送りをするべく一真の後を付いていき、靴を履き終えた一真は「じゃあな」と別れを告げてあたしの家を出ようとしたとき、
「忘れ物した」
そう言いながら振り返った彼は、油断しまくっていたあたしの額に1つキスをして帰っていった。
「な、ななっ…なん!」
何でキスした!?
足の力が抜けてその場に座り込み、右手でキスされた場所に手を当てた。
まだ…感触が残ってる。
唇柔らかかった…プルプルしてた。
手か何あの顔、最後のドヤ顔もイケメンがしたらすごい様になっていた。
ていうか、あー顔が熱い顔が熱い。
さっさと風呂入って寝よ。うん、そうしよう。
今さっきの出来事のせいで上がった熱を冷ますべく、着替えを抱えてお風呂場へと向かった。
熱は下がってもやっぱり消えず思い出されるのは彼の顔。
お風呂に入っていても、髪を乾かしていても、歯を磨いていても。
布団の中に入った後も___思い浮かべるのは一真。
「一真…」
彼の名前を口にすればこの前よりもはっきりした、しっくりきた。
あぁ、そっかそうなんだ。
認めてしまえば簡単で、すぐにでも言いたくて、あの笑った顔が見たくて。
早く会いたい。
早く話したい。
早く笑いあいたい。
照れくさいけど、手を握ってこの想いを伝いたい。
「一真、好き…だ、よ…」
不思議とそこで瞼が落ちてきて、夢の中に引きずり込まれながらやっと自覚した気持ちを言葉にしながらあたしは眠りについた。
______________…
アラームが鳴ったら消して二度寝したらまた鳴って、そしてようやく起きるいつも通りの朝。
お母さんが朝ごはんを作っているんだろう、ベーコンとか美味しそうないい匂いがする。
雷のように鳴るお腹を押さえて下に降りると、テーブルの上に広がるのは絶対美味しい朝食メニューだった。
「おはよう」
「おはようお父さん。あとお兄ちゃんも」
「俺はついでかよ」
「それにしてもお兄ちゃんがこんな時間に起きてるなんて珍しい」
お兄ちゃん絶対7時半すぎにしか起きてこないのに可笑しい。
俺だって起きるときは起きるんだよって言う我が兄はちょっと頭やっちゃてる。
朝ごはんの後に残りの準備をしていくと、たまにリビングから聞こえる「一真君が来るわよ?」という声。
首を傾げながらもあたしは準備をして玄関へと足を運ばせローファーを履くと、お母さんが小走りで玄関に来た。
「愛、一真君まだ来てないわよ?迎えに来るってメール来てたんだけど。もうちょっと待ちなさい」
はぁ…とお母さんの言葉に溜め息が出る。
「お母さん。一真君が来る、一真君が来るって言ってるけど」
____…ガチャ
「おはようございます。愛、学校行こう」
「一真って誰?」